改正相続法で事実婚の配偶者は保護されるのか?

公開日 2020年10月30日 最終更新日 2020年10月31日

2018年7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(相続関連)が成立しました。

※2019年7月1日より施行されています。

民法のうち、今回改正のあった相続法の分野については、1980年以来大きな見直しはされてきませんでしたが、その間にも社会の高齢化が進展し、相続開始時における配偶者の年齢も高齢化しているため、その保護の必要性が高まっていました。
今回の相続法の見直しは、このような社会情勢の変化に対応するものであって、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。

今回の改正のポイントである「残された配偶者の生活の配慮」について、これに事実婚の配偶者が含まれるのか等について、一つずつ解説していきます。

 

(1)配偶者の居住権の保障(2020年4月1日施行)

夫婦の一方が亡くなった際に、一定の要件を満たす場合、被相続人(亡くなった人)が所有する建物に、残された配偶者が賃料の負担なく住み続けることができる権利を保障するという制度です。

被相続人が所有する建物に相続開始時に居住していた配偶者は、以下のケースで配偶者居住権を取得することができます。

①遺産分割協議・遺産分割審判で配偶者居住権を取得するとされたとき

②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき

 

ただし、この制度は、法律婚の配偶者を対象とするものとして設けられたため、事実婚の配偶者への適用はありません。

(2)配偶者短期居住権(2020年4月1日施行)

夫婦の一方が亡くなった際に、残された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合、残された配偶者が直ちに住み慣れた建物を出て行かなければならないとすると、大きな負担が掛かってしまいます。

この配偶者短期居住権は、被相続人の所有する建物に居住していた配偶者が一定期間(遺産分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間)無償でその建物に住み続けることができる権利です。

ただし、この制度は、法律婚の配偶者を対象とするものとして設けられたため、事実婚の配偶者への適用はありません。

しかし、法律婚の配偶者と同様に被相続人と「夫婦」として生活してきたにも関わらず、相続開始後にすぐに家から退去しなければならないのはさすがに不合理と言えるでしょう。

事実婚(内縁)の配偶者について以下の判例があります。

【判例①】
「内縁の夫婦がその共有する不動産を居住または共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情がない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である」としています(最一小判平10.2.26)。

【判例②】
内縁の夫が単独で所有していた建物について、相続人(内縁の夫の子)から内縁の妻に対する明渡請求がなされた事案で、内縁の夫婦の間で「黙示的に内縁の妻が死亡するまで本件建物を無償で本件使用させる旨の使用貸借契約が成立していたものと認めるのが相当である」として、明渡請求を棄却しています(大阪高判平22.10.21)。

以上の判例があるため、残された事実婚の配偶者への居住権の保護も認められる可能性があります。

 

(3)婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈または贈与についての持戻し免除の意思表示の推定(2019年7月1日施行)

以下の要件を満たすとき、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしたものと推定する制度です。

①婚姻期間が20年以上の夫婦であること

②居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたこと

※「持戻し」とは、遺産分割時において、具体的な相続分の計算は、遺贈や生計の資本となるような贈与を受けた者が相続人の中にいれば、これを特別受益として、その価額を加算したものを「みなし相続財産」とし、これに法定相続分を乗じた上で、遺贈や特別受益を受けた相続人については、遺贈や贈与の額を差し引いて算定することです。
被相続人の意思表示によって、この「持戻し」を免除することができます。

婚姻期間が長期にわたる夫婦について、財産形成における協力や貢献を評価して、残された配偶者の生活の保障するという目的で設けられました。

相続人間における具体的な相続分の算定に関する規定であって、法定続人に該当しない事実婚の配偶者への適用はありません。

 

(4)特別寄与制度(2019年7月1日施行)

被相続人に対して、無償で療養看護を提供したことによって、被相続人の財産の取得や増加について特別の寄与をした「被相続人の親族(相続人を除く)」は、相続開始後に相続人に対して、寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができるという制度です。

この制度は、介護をした相続人の配偶者(例えば、子の配偶者)への対応が念頭にあります。

対象は、法律の親族に限られるため、事実婚の配偶者への適用はありません。

 

 

(5)まとめ

いかがでしたか?

今回の民法(相続法)改正の内容については、事実婚の配偶者への適用はほぼありません。
唯一、「配偶者短期居住権」が認められる可能性がありますが、あくまでも可能性の話となってしまいます。

やはり、事実婚の配偶者(パートナー)に財産等を残したいのであれば、遺言書が安心で確実な方法となります。

 

 

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